最後の方で、ちょっとバタバタと終わってしまったような気がしましたが、全体的な雰囲気がとても好きで、脇にもその後が気になるキャラがいるので、続きが読みたいなと思いました。
師匠とは、感謝師匠(要)ではなくて初助師匠のこと。
かの御仁の魅力の一つは、めちゃくちゃ色っぽいことです。他者に「男に抱かれるのではなくて男を喰っている」といわれるほど。誘い受けとか、クールビューティとか、そんな言葉では追いつけません。”飛んで火に入る夏の虫”の虫が男で、火が師匠。師匠は、たくさんの男達が惹かれてしまう男、なんでしょう。
もう一つの魅力は、ミステリアスさでしょうか。全作は本当に謎の人物でしたが、今回は師匠の人生の多くが書かれています。それでも、師匠は謎の多い人物です。それは、年を取った師匠の内面が詳しく書かれていないことからきているのかもしれません。人生も、彼の内面も予想できるのに、それでも「謎多き男」です。
落語の魅力については、ここでは書かきません。(と言うか書けないです。これは読まなくちゃ分からないものに思えます。) 禁断の芸道小説古典落語の名手だった山九亭初助は1年前に肺ガンで亡くなった。享年65歳。この生涯独身だった美貌の師匠の謎の生涯を、死後に弟子の山九亭感謝が回想する形式で描く連作もの。
回想されるのは感謝が入門した当時、師匠が40代で、20代だった感謝とその兄弟子との関係は一応ボーイズラブのお約束を果たしているのだが、圧倒的に強烈な魅力を放っているのは初助師匠である。すでに中年なのに妖しいフェロモン全開。いや本当の芸人ってこういうものでしょう。たぶん。読めば読むほど、この人の人生、この人の過去、この人の秘密が知りたくてたまらなくなる。
本作「花扇」ではいよいよ初助師匠の謎の前半生がほぼ明らかになり、かなりイレギュラーでハードなHも盛り込まれていますが、それでもこれはBLというより優れた芸道小説として読まれるべきだという気がする。
初助師匠の芸人としての筋の通った生き方は、昭和という時代へのレクイエムであると同時に、テレビ万能の芸能界、美しい言葉が失われていく現代への皮肉でもある。この作品は、剛しいらの作品中でも最も良いものの一つであると思う。いまどき落語という題材で、こういう形式でこんなに面白い小説を書ける人はめったにいないでしょう。
それにしても前作「座布団」が絶版になったままなのはあんまりだ。甥っ子漫才コンビのエピソードもありそうなので、ぜひ前作の再版およびシリーズの続行を希望します。